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「なぜ“戦術”より“戦略”が先なのか?中小企業が陥るマーケティングの罠」

はじめに

中小企業がマーケティング活動を進めるうえで、つい「広告を打たなければ」「SNSで投稿しなければ」といった“戦術”に飛びついてしまうことがあります。しかし、その前に踏むべき「戦略」が曖昧なままだと、リソースの浪費や成果の停滞という“罠”に陥りやすくなります。本記事では、「戦略優先」の重要性、中小企業がハマりがちな落とし穴、さらに戦略から戦術へつなぐためのステップを整理します。


1.戦略と戦術の違いとは?

まず用語整理をしておきましょう。

  • 戦略(Strategy):どこで・誰に・どのような価値を提供するか、企業としての方向性や優先すべき顧客・提供価値・差別化ポイントを定めること。
  • 戦術(Tactics):その戦略を実現するための具体的な手段・施策。広告出稿、SNS投稿、キャンペーン、オファーなど。

“戦略”を飛ばして“戦術”だけを積み重ねると、以下のようなリスクがあります:

  • 誰をターゲットにしているか不明確 → 拡散型になり成果が散漫に。
  • 競合との差別化が曖昧 → 戦術を真似されやすく、価格競争になりがち。
  • リソース(ヒト・カネ・時間)が限られている中小企業では、効率的に使えず“空回り”する可能性。

このように、戦略がないまま戦術を進めると、結果として “やった感” はあっても、売上・利益といった成果にはつながりにくくなります。


2.なぜ中小企業は「戦術先行」に陥るのか?

中小企業がマーケティングで戦略を後回しにし、戦術を優先してしまう背景には、以下のような要因があります。

2-1.即効性・可視性を求めがち

「広告を出したらすぐ反応が出るかも」「SNS投稿をすればフォロワーが増えるかも」と、目に見える手段を先に選びたくなる心理があります。しかし、即効性のある施策も、方向性が定まっていなければ“ムダ打ち”になりかねません。

2-2.マーケティング理論や戦略立案にリソースを割けない

中小企業では、担当者が兼任だったり、専任の戦略マーケターがいなかったりするケースが多く、「まずやってみよう」という流れに流されやすいです。その結果、戦略的な思考設計が後回しになります。

2-3.成功事例や流行を“戦術”として追いがち

SNSやセミナー、書籍などで紹介されている「インフルエンサー起用」「TikTokチャレンジ」「Web広告最新型」などが魅力的で、「自社でもやろう」となります。しかし、そもそも戦略が合致していなければ、どんな手段も十分に機能しません。


3.戦略を先に定めると得られる3つのメリット

戦術より先に戦略を設計することで、中小企業にも以下のメリットがあります。

3-1.リソース配分が効率的に

ターゲット顧客・提供価値・差別化ポイントが明確になれば、広告・販促・人的リソースを“やるべきこと”に集中できます。限られた予算・時間を最大限に活用できます。

3-2.施策の整合性が高まる

戦略を軸にすると、個々の戦術(SNS投稿、広告、イベントなど)がばらばらではなく、全体として一貫性を持ちます。ブランドやメッセージがぶれにくくなり、顧客理解・信頼構築につながります。

3-3.成果の因果関係を掴みやすい

「このターゲットにこの価値を伝える」という戦略に対して、戦術を設計していれば、どの施策がどの成果に結びついたか把握しやすくなります。改善の方向性を明確に示せるため、PDCAが回しやすくなります。


4.中小企業が陥る“典型的な罠”とその抜け道

ここでは、中小企業が実際に陥りがちな「戦術先行」状態のパターンと、それをどう抜け出すかを整理します。

罠①:ターゲットが曖昧で“なんとなく広告”を出す

  • 例:年齢・性別くらいしか設定せず、「とにかく多くの人に見てもらおう」と広告を広範囲に出稿。
  • 問題:リーチした人の多くが自社サービスや商品に関心のない層 → CPA・CPOが高騰。
  • 抜け道:ペルソナ設定を深掘りし、「この人のどんな悩みを」「どのような背景で」「どんな価値を提供」するかを明確にする。

罠②:戦術を次々に実施して成果が見えないまま継続

  • 例:Instagram投稿、YouTube活用、DM施策、キャンペーン…と手を広げる。
  • 問題:どれが成果に繋がっているか分からず、コストだけ増える。
  • 抜け道:戦略に照らして、優先すべき戦術を絞り込む。KPIを設定し、小規模で検証→成果が出たものをスケールする。

罠③:競合がやっている“流行りの施策”を真似るだけ

  • 例:他社がTikTokを活用しているから、自社でも実施。でもターゲット・商品構造に合致していない。
  • 問題:エンゲージメントは出るかもしれないが、売上拡大・事業成長に直結しない。
  • 抜け道:戦略に立ち返り、「本当に自社にとって適したチャネル・手段なのか」を検証。流行は“補助的”に活用。


5.戦略から戦術へ落とし込むための4ステップ

戦略を設計したあと、それを実践可能な戦術に落とし込むためのステップを紹介します。中小企業ならではのリソースを意識しながら実践すると効果的です。

①現状分析&目的整理

  • 自社の強み・弱み/市場・競合環境/顧客の状況を整理。
  • 目的(売上〇〇%増/新規顧客獲得数●件/リピート率向上など)を数値化。

②戦略設計

  • ターゲット:誰に(ペルソナ)/どんな悩み・課題を持っているか。
  • 価値提供:その人にどんな価値をどう届けるか。
  • 差別化:競合とどう違うか。自社だけの強みは何か。
  • チャネル:どこ(オンライン/オフライン/ハイブリッド)で届けるか。

③戦術立案・実行プラン作成

  • 戦術の優先順位をつけて、小さく始める。
  • 各戦術に対してKPI・KGIを設計。
  • 担当・スケジュール・予算を明確に。

④効果測定&改善サイクル

  • 定量・定性両面で成果を振り返る。
  • 成果が出ない場合は「戦術」だけでなく「戦略」の再検証も。
  • 成果の出ている戦術にリソースを集中。成功モデルを拡張。


6.まとめ

中小企業にとって、マーケティングは限られたリソースを最大限に活用することが鍵です。そのためには、戦術に飛びつく前にまず「戦略」をしっかり定めることが不可欠です。
戦略を土台にすることで、戦術の選択・実行・改善が効率化され、結果として売上・利益拡大につながりやすくなります。逆に、戦略を軽視して“とりあえず手を打つ”という流れだと、せっかくのマーケティング予算もヒトも眠らせてしまうことになりかねません。

本記事を通して「なぜ戦略が先なのか」を再認識し、ぜひ自社のマーケティング活動を一段階引き上げていただければと思います。


執筆:株式会社SHIKI JAPAN 取締役 / COO 瀬戸郁哉
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